FET 安全動作領域(SOA)の見方

電気・電子

ども、最近寝不足のあまさわです。

パワーMOSFET 絶対最大定格で確認することでも説明したようにFETを故障させないために、絶対最大定格は守らなければなりません。

しかし、絶対最大定格はある一定条件の定格値を表しているため、「温度が~℃で電流がどのくらい流せるか」などの情報はわからないんです。これを一目瞭然にするのがSOAなんです!

 

安全動作領域(SOA、ASO)とは

安全動作領域は、英語の”Safety Operating Area”の頭文字から”SOA“、または”Area of Safety Operating”の頭文字から”ASO“と呼ばれています。

名前の通り、SOAはFETが安全に動作できる領域を示しており、この領域を超えて使用するとFETの故障や劣化につながるため、回路設計者はいかなる状況でも、SOA範囲内でFETを動作させるように設計しなければなりません!

もし、SOAを超えるような設計をしていたら試験をしていたら、かなりの高確率で故障してしまいます。そのせいで試験がやり直しなんてことも、、、。設計者の責任は重いですね。笑

SOAは、ドレイン電流ID(縦軸)とドレイン-ソース間電圧VDSの関係において、定格電圧、定格電流、許容損失に対して安全な領域が示されています。

SOAには5つの制限領域から成り立っている

SOAのグラフを見てみると、安全領域は一本の線で引かれているように見えますが、実はこれは5本の直線が組み合わさってできている領域なんです。

それぞれの領域は5つの項目から決まります。
①オン抵抗制限領域
②電流制限領域
③熱制限領域
④二次降伏領域
⑤ドレイン-ソース間電圧領域

オン抵抗領域

オン抵抗領域は、FETのオン抵抗RDS(ON)により制限される領域です。

オン抵抗とは、FETのゲート-ソース間に電圧を印加し、FETオン状態になった時の、ドレイン-ソース間の抵抗値のことを指します。

私は、そもそもなんでオン抵抗が制限領域を決めるのか?と疑問に思いました。

しかし、よくよく考えてみるとドレイン電流はドレイン-ソース間のオン抵抗の損失によって定格値が決まるので、SOA上にオン抵抗領域が存在することに気が付きました。

オン抵抗領域は、ドレイン-ソース間電圧とオン抵抗からドレイン電流の定格値を計算します。式で表すと以下のようになります。
$$
I_{D} = \frac{V_{DS}}{R_{DS(ON)}}
$$

今回の例ではRDS(ON)を4.2[mΩ]で計算すると、

VDS=0.2[V]の場合
$$
I_{D} = \frac{V_{DS}}{R_{DS(ON)}} = \frac{0.2[V]}{4.2[mΩ]} = 47.6[V]
$$

VDS=0.5[V]の場合
$$
I_{D} = \frac{V_{DS}}{R_{DS(ON)}} = \frac{0.5[V]}{4.2[mΩ]} = 119.0[V]
$$

電流制限領域

電流制限領域とはドレイン電流の定格値で制限される領域のことです。DC(連続)の場合はID(max)、パルスの場合はIDP(max)で表わします。

今回の場合、IDP(max)は160Aなので、グラフのドレイン電流160Aの部分にY軸と垂直方向に直線を引きます。

電流制限領域は、データシート記載の定格値をそのままグラフに反映しているだけなので、SOAの中でも考え方がわかりやすい領域のひとつですね!

熱制限領域

熱制限領域とは、FETの許容損失PDで制限される領域のことです。この領域を決めるPDは一定なので、両対数のグラフでは-1の傾きとなります。

許容損失はパワーMOSFET 絶対最大定格で確認することでも説明したように、ジャンクション温度と熱抵抗から求めることができます。

また、損失PD電流IDとドレイン・ソース間電圧VDSから求めることも可能です。つまり、熱制限領域を決めるには以下2つの式を用います。

$$
\begin{eqnarray}
P_{D} &=& \frac{ジャンクション温度-周囲温度}{熱抵抗} \\
\\
&=& \ \frac{T_{j}-T_{a}}{R_{thJC}} ・・・(1)
\end{eqnarray}
$$

 
$$
\begin{eqnarray}
P_{D} &=& ドレイン電流 \times ドレイン・ソース間電圧 \\
\\
&=& \ I_{D} \times V_{DS} ・・・(2)
\end{eqnarray}
$$

 
まず、(1)式から考えてみましょう。

SOAのグラフを見るとパルス幅によってグラフが細分化されているのと、条件欄に「Ta=25℃」「single pulse」と記載されているのがわかります。

これは25℃環境でシングルパルスが来た場合の制限領域を表しています。そして、シングルパルスのパルス幅によって制限領域も変わるため、各領域が存在するということです。

熱抵抗RthJCは、定常(DC)の場合はデータシート記載の1.05[℃/W]ですが、シングルパルスを考えた場合熱抵抗の値が変わります。

これは、”過渡熱抵抗-パルス幅”のグラフから値を出すことができるんです!

パルス幅10msの場合を考えてみましょう、パルス幅0.01[s]の「single」の曲線を確認すると、r(t)は0.16になっているので、ここから過渡熱抵抗を求めると以下の値になります。

$$
\begin{eqnarray}
R_{thJC(t)} &=& \ r_{t} \times R_{thJC(t)} \\
\\
&=& \ 0.16 \times 1.05[℃/W] \\
\\
&=& \ 0.168[℃/W]
\end{eqnarray}
$$

 
この値を踏まえて、(1)式を計算すると
 

$$
\begin{eqnarray}
P_{D} &=& \ \frac{T_{j}-T_{a}}{R_{thJC}} \\
\\
&=& \ \frac{150[℃]-25[℃]}{0.168[℃/W]} \\
\\
&=& \ 744[W]
\end{eqnarray}
$$

 
これにより、(2)式を使うと
 

$$
\begin{eqnarray}
I_{D} &=& \ \frac{P_{D}}{V_{DS}} \\
\\
&=& \ \frac{744[W]}{1[V]} \\
\\
&=& \ 744[A]
\end{eqnarray}
$$
 
となります。
 

二次降伏領域

二次降伏領域とは、バイポーラトランジスタの二次降伏に相当する領域のことです。ここでいう二次降伏とはドレイン・ソース間(D-S間)電圧が高くなったときに急激にドレイン電流が増加することをを指します。

二次降伏に関しては、以下の記事も参考にしてもらえると良いですよ。
トランジスタの一次降伏、二次降伏とは

ドレイン・ソース間電圧領域

ドレイン・ソース間電圧領域とは、ドレイン-ソース間(D-S間)の耐圧VDSSにより制限される領域のことです。この領域は、絶対最大定格記載のドレイン・ソース間(D-S間)電圧の値がそのままSOAのグラフに反映されています。

今回の場合は、VDSS=60Vなので、X軸に対して垂直にグラフのような直線が引けます。

筆者のつぶやき

最初はSOAと聞くと難しそうに聞こえますが、5つの項目を一つひとつ明確にしていけば以外と単純であることが分かります。

半導体を扱う電気系設計者であれば、今後SOAのグラフを嫌という程みるかもしれませんね。

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