パワーMOSFET 絶対最大定格で確認すること

電気・電子

ども!先日久々の海外出張でテンションの上がったamasawaです!

 
今回FETの重要パラメータである絶対最大定格について説明します。

 

絶対最大定格を超える設計をしてはいけない!

FETのデータシートには絶対最大定格と呼ばれる、絶対に超えてはならない値があります。もし絶対最大定格を超えた場合、FET故障、回路動作不良の原因にもなります。

 
そのため、設計者はいかなる状況でも定格以下で動作する回路を設計しなければいけません。逆に言うと、定格を超えさえしなければ電気的ストレスでのFET破損を防げるということです!

 
絶対最大定格は、他の特性と関連があるものが多く、例えば、定格電流100A、定格温度175℃だとしても、これらは同時に許容できません。なぜなら、温度は上がれば上がるほど、定格電流は低下するからです。

 
データシート記載の数値はある条件において許容できる定格です。絶対最大定格を確認するためには、データシート上の数値だけでなく、グラフに照らし合わせて、想定する条件下で問題ないことを確認する必要があります。

 

パワーMOSFETの絶対最大定格

MOSFETの絶対最大定格の項目について、1つずつ見ていきましょう。

 

ドレイン・ソース間電圧【VDSS】

 
ゲート・ソース間(G-S間)を短絡したとき、ドレイン・ソース間(D-S間)に印加することができる電圧のことです。ドレイン・ソース間(D-S間)に定格を超えた電圧が印加されると、降伏領域に入り、大電流が流れることでFETが故障する可能性があります。

 
VDSSは温度に依存していて、ジャンクション温度が上昇するほど、降伏電圧V(BR)DSSの値が上昇することがわかります。変化率については、データシート記載の「降伏電圧-ジャンクション温度」のグラフをみて確認しましょう。

 
今回の例だと、ジャンクション温度が25℃で降伏電圧が60[V]となり、125℃では降伏電圧が1.1倍になるので、「60[V]×1.1=66[V]」と計算することができます。

 

許容損失【PD】

 PD:許容損失
 PDmax:許容損失-絶対最大定格値
 Tj:ジャンクション温度
 Tjmax:ジャンクション温度-絶対最大定格値・・・150[℃]
 Ta:周囲温度:25[℃]
 RthJC:熱抵抗

 
許容損失とは、FETが連続的に消費させることができる損失の最大値のことです。通常、損失とは「電流×電圧」で求めることができますが、この値がどのくらいまでOKなのか?を示しています。

 
許容損失はジャンクション温度過渡熱抵抗から計算することができます。式を用いて計算すると、データシート記載の許容損失と同じ値になっているのがわかります。

 
$$
\begin{eqnarray}
P_{D} &=& \frac{ジャンクション温度-周囲温度}{熱抵抗} \\
\\
&=& \ \frac{T_{j}-T_{a}}{R_{thJC}} \\
\\
&=& \ \frac{150[℃]-25[℃]}{1.05[℃/W]} \\
\\
&=& \ 119[W]
\end{eqnarray}
$$

 
また、許容損失はFET温度によって変わり、温度が上昇するほど許容損失も低下します。上記で求めた許容損失と「許容損失ディレーティングカーブ」のグラフから、ある温度における許容損失を計算することができます。

 
仮にジャンクション温度が100[℃]として計算してみましょう。

 
$$
\frac{P_{D}}{P_{Dmax}} \ = \ \frac{T_{jmax}-T_{j}}{T_{jmax}-T_{a}}
$$

 
式を変形して、計算すると、、、
$$
\begin{eqnarray}
P_{D} &=& \ \frac{T_{jmax}-T_{j}}{T_{jmax}-T_{a}} \ \times \ P_{Dmax} \\
\\
&=& \ \frac{150[℃]-100[℃]}{150[℃]-25[℃]} \ \ \times \ 119[W] \\
\\
&=& \ 47.6[W]
\end{eqnarray}
$$

 
許容損失は47.6[W]となります。

 

ドレイン電流【ID】

ドレイン・ソース間に流れる電流をドレイン電流といいます。一般的に、直流電流の定格値をID、パルス電流の定格値をIDPと定義することが多いです。

 
ドレイン電流は、ドレイン・ソース間のオン抵抗RDS(on)の損失によって定格値が決まります。許容損失とオン抵抗は様々な条件で値が変わるので、使用環境に応じた値で計算すればドレイン電流を求めることができます。

 
$$
I_{D} = \sqrt{ \frac{許容損失}{オン抵抗} } = \sqrt{ \frac{P_{D}}{R_{DS(ON)}} }
$$

 

ゲート・ソース間電圧【VGSS】

ドレイン・ソース間を短絡した時に、ゲート・ソース間に印加することができる最大電圧値のことです。ゲート・ソース間の絶対最大定格値は、ゲートとチャネル間にあるゲート絶縁膜の耐量によって決まる値です。

 
FETを駆動するためには、ゲート・ソース間に電圧を印加しなければなりません。さらに電圧が高いほどオン抵抗が下がる特性を持っているため、ゲート電圧をできるだけ高い値にしたくなります。

 
私も、オン抵抗を下げたいがために、ゲート・ソース間電圧をできるだけ上げようと回路を設計した経験があります。笑

 
幸い、途中でゲート・ソース間(G-S間)電圧定格値の存在に気付いたため故障は免れましたが、下手したらFETを壊していたかもしれません。ゲート電圧の設定値を怠ると絶対最大定格を超えてしまう可能性があるため注意が必要です。

 

アバランシェ電流【IAS】、アバランシェエネルギー【EAS】

アバランシェ状態で許容できる電流ピークの最大値をアバランシェ電流IAS、アバランシェ降伏時の最大許容損失エネルギーをアバランシェエネルギーEASといいます。

 
MOSFETがスイッチング動作を行うと、回路に含まれるインダクタンスの影響で、FETターンオフ時にサージ電圧がドレイン・ソース間(D-S間)に印加されます。

 
サージ電圧がVDSSを超えると降伏状態に入り、アバランシェ電流が流れます。このとき、アバランシェ電流、アバランシェエネルギーが定格を超えるとFETが破壊されてしまいます。

 

ジャンクション温度【Tj】、保存温度温度【Tstj】

MOSFETの温度が許容される温度の最大値をジャンクション温度Tj、電圧を印加しないで保存できる温度の最大値を保存温度Tstjといいます。

 
これらの温度は、MOSFETを構成する材料と信頼度によって決まり、高い温度で使用し続けると、故障だけでなく劣化も促進されます。

 
そのため、できるだけFETの温度上昇を抑えて使用するのが好ましいですが、どうしても負荷がかかってしまうときは、放熱フィンを取り付けて冷却効果を高める必要があるでしょう。

 

筆者のつぶやき

絶対最大定格は様々なパラメータがあるため、すぐに理解するのは難しいと思います。私もFETをたくさん壊して、一つ学んで、また壊して、学んでの繰り返しです。それは今でも変わりません。

 
FETを理解するためには、勉強だけではなく実際に回路を設計することは非常に重要だと思います。

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